こんにちは。GMOリザーブプラスの馬場です。
弊社製品のメディカル革命において最近リリースされた「オンライン マップ集患」という機能はご存じでしょうか。この機能は、管理画面から必要な情報を入力すると、Google マップやGoogle 検索から直接予約リンクにアクセスできるボタンを追加したり、そのクリニックが提供する予約可能なサービスの詳細を表示して検索性を向上させる、SEO ならぬMEO (Map Engine Optimization) の機能です。この機能を利用することにより、激戦となっているクリニック経営における集患力(患者を集める力)を向上させ、初診患者の獲得数を増やし、医療経営のサポートに貢献できます。
この機能にご興味をお持ちの方は、ぜひこちらのサービス紹介資料にアクセスいただければと思いますが、本記事では実際に本機能の実装の苦労を、技術面というよりは、あえてコミュニケーションの観点でご紹介しようと思います。というのも、オンライン マップ集患機能は、名前の通りGoogle 社との密な連携があって初めて実装できた機能であり、そこには技術だけではない、相手を敬いつつ、こちらの要求をうまく通す、いわゆるアサーティブコミュニケーションの力がエンジニアとしても強く求められました。社内的な事情もあり、詳細な交渉内容についてはお話しできませんが、この記事を読むことで、他社と何かしらのアライアンスを組もうという動きに関わり始めるエンジニアにとって、何か得るものをご提供できれば幸いです。
言うまでもなく、エンジニアにとって技術力はとても大事ですが、コミュニケーション力も重要です。コミュニケーション力があると、技術をうまく活用できる場が広がり、なんだかんだ得します。私はこれがとても苦手なのですが、仕事を進める上で、特に相手との交渉の際には、普段のコミュニケーションとは別の「こちらの要求を通すためにうまく立ち回る」力が必要になります。これをアサーティブコミュニケーションといいます。
アサーティブネス (Assertiveness) は自己主張という意味があり、日本人にとっては少しネガティブな印象を受けますが、アサーティブコミュニケーションは、単に自分の要求だけを相手に伝えるのではなく、自分の要求を通すために、相手を尊重し、相手の意見を傾聴し、主張を明確に相手に伝えることを指します。このスキルがあると、エンジニアでもかなり得しますし、とりわけ海外の人と仕事をする際には重要になってきます。
つまり、国によって様々ですが、海外の人と仕事をしていると、日本に比べてメッセージが明確かつシンプルだったり、シンプルすぎるがゆえに攻撃的に見えたり、こちらが冗長な表現をし続けていると結局何が言いたいの?と怒られたり、意外と内容がテキトーだったり、自信に満ち溢れていると思ったら全然回答が間違っていたり、その間違いを断固として認めなかったりと、非常に多種多様な人と出会います。アサーティブコミュニケーションは、そうしたカオスな状況を切り抜けるための、コミュニケーションにおける共通フレームワークと言っても良いかもしれません。
アサーティブコミュニケーションの詳細にこれ以上立ち入るつもりはありませんが、伝えたかったことは、言語や文化的背景が異なる人との仕事をする際のコミュニケーションとして、アサーティブコミュニケーションを頭の片隅に意識すると、仕事を進めやすくなるはずです。
本記事では、仕事を進めるうえで常にアサーティブコミュニケーションを意識していましたが、その中でも特に重要な点として、以下の4つをご紹介します。
オンライン マップ集患の機能は、一言でいうと連携のためにクリニックの情報(センシティブなものは除く)をGoogle 社に送信する必要があります。送信したデータをもとに、Google 社でテストをし、問題なければ予約ボタンをGoogle マップに公開、という流れなのですが、情報送信にあたりマニュアルが不明瞭だったり、マニュアルの記載が途中で変わったり、といったことがちょくちょく発生しました。JSON 形式で情報を送信するのですが、送信仕様がマニュアルを見るだけでは分からず、実際に送ってエラーが出て初めて気づく、といったことが実は結構ありました。
その際にGoogle 社に問い合わせをするのですが、本機能の場合は海外側にサポートチケットという形で起票します(このあたりは、日本側のサポートが充実していない海外製品を扱った経験がある方はよくご存じかと思います)。サポートチケットが起票されると、担当エンジニアがアサインされ、回答してくれるといった流れです。
チケット起票のタイミングで、確認したい内容を英語で記載するわけですが、自分が常に意識していた点としては「質問や要望はとにかく箇条書きで書く」「なるべくクローズドクエスチョンで端的に回答できるような質問をする」ということです。
例えば、「あるJSON のキーが必須なのか?必須の場合は値は何文字までなのか?禁止されている文字列はあるのか?」といった質問をするとします。その際の質問の書き方は、以下のように必ず箇条書きに、かつ可能な限り相手が端的に答えやすいようにします。
Q1. このJSON のキーは必要か?
Q1-1. 必要な場合、何文字まで許容されるか?
Q1-2. 必要な場合、禁止されている文字列はあるのか?
これは単純な例のため、1行で書いてもOK だとは思いますが、箇条書きにすると、以下のように回答を誘導でき、回答の抜け漏れを抑止できるのでオススメです。
Q1. このJSON のキーは必要か?
→ 必要です。
Q1-1. 必要な場合、何文字まで許容されるか?
→ 20文字までです。
Q1-2. 必要な場合、禁止されている文字列はあるのか?
→ 半角英数のみ利用できます。
あとは質問事項を明確にするために、丁寧すぎるくらいに画像を使うことをお勧めします。以下のように質問内容について画像と説明をなるべく記載すると、コミュニケーションにズレが生まれにくくなります。
また、今でいうとDeepL のような翻訳サービスだけではなく、ChatGPT のようなAI を使った文章自体の作成ができますので、私のような英語が苦手なエンジニアにやさしい世界になりつつあります。もちろん日本語においても、冗長な文章のブラッシュアップにAI は活用できます。
先ほど質問のためにサポートチケットを起票と記載しましたが、厳密には通常の障害時のサポートリクエストの際に起票するチケットとは異なり、連携機能を開発するためのアライアンスのためのサポートチケットの起票となりますので、どうしても優先度はビジネスに依存します。つまり、障害ではない、ある意味不要不急のサポートチケットと見なされがちなので、回答が遅かったり、繰り返し担当を突かないとなかなか回答がされないケースがあります。また、状況によっては相手の要求をそのままは受け入れられず、交渉による妥協点を探らないといけないケースが発生します。今回の場合、具体的にはお伝えすることはできませんが、弊社でのセキュリティ強化の仕組みと、Google マップのオープンなポリシーの間で交渉の必要性が発生しました。
このような交渉が発生し、何としてでもこちらの要求を通したい場合、特に相手が海外の方だと、いわゆる搦め手、例えば営業と連携してキーマンを飲みで落としに行く、みたいなことはできません(今は会社のポリシー上、日本でも難しい場合が増えてきましたが)。そこで、こちらの要求を伝える場合には以下の2つを明確に伝えるように心がけました。
前者では「日本の商習慣上この実装は難しい。なぜならば…」といったように、日本独自の制限などを海外本社側にうまく理解してもらうことが重要でした。その際に、日本の事情をよく理解している日本法人があるととても助かりまして、今回はGoogle 社の日本法人の手厚いサポートもいただきました。
後者では、「1年目で販売〇件を目指します。3年で目標数値は〇件です。これは今の弊社の売上の伸び率では十分達成しうる目標です」「要求が受け入れられない場合はこの機能は実装できません。日本の医療の主要な予約サービスとの連携ができないことは貴社にとって〇〇のデメリットがあります」といったように、とにかく数字や期日など定量的なメリットを重視します。このあたりのある種の作文の仕方はエンジニアだけでは難しいので、社内で連携しながら進めることになります。控え目な目標値だと要求が通らず、かといって強気に行き過ぎると後で困るので、うまく塩梅を探りつつ事前に社内で合意しておくことが重要です。
確認はとても重要です。特にサポートチケットにアサインされたエンジニアによっては、正直なところ回答がかなり雑な場合がありました。そして海外エンジニアとの言語差がある場合のやり取りにおいては、ミスコミュニケーションがしばしば発生します。
そこで、先述したように、質問をなるべく端的に、できればYES/NO で答えられるように落とし込むことで、ミスコミュニケーションを防ぎます。また、YES と回答をいただいた質問が、後で実はNO だった、ということも発生します(実は今回これが多く、かなり苦しめられました笑)。可能であれば複数人への確認、例えば質問によってはサポートチケット+日本法人への追加確認、といったことも実施して、回答間違いによるトラブルをなるべく防ぐように工夫しました。同じ質問に対して3回の回答誤りがあったときは流石に泣きそうになりましたが、折れずに、粘り強く対応することが重要です。そして正しい回答をいただいたときは、感謝の気持ちと(少し大げさなくらいの) お礼を忘れずに。
最後に1つ、知っておくと便利なTips として、質問を投げるタイミングをちょっとだけ工夫するとよいです。チケット担当者がUS の人であれば、US 時間を意識して、例えばUS の朝の出勤時間あたりに質問が届くようにすれば、担当が朝一番で目にするように仕向けられます(相手にとっては半ば嫌がらせに見えてしまうかもですが、そこはまあ、ご愛敬ということで)。他にも、金曜夜に質問をすると、日本の場合は回答タイミングが遅くなるかもしれませんが、US においては時差がありますので、日本時間の土曜日中に回答してくれるかもしれません。他にも、サンクスギビングや中国の春節など、海外の祝日を意識したコミュニケーションをすると役立つ場合があります。
今回の記事は技術の話がほとんどなかったのですが、アサーティブコミュニケーション、つまり要求をうまく通すためのコミュニケーションの観点で紹介しました。人によっては物足りない、むしろ物足りないという人しかいなかったかもしれませんが、海外のエンジニアと仕事をする際には必要なスキルになります。基本的な内容を多く含みますが、経験をしないと中々身につかないので、あえて紹介してみました。
改めてまとめますと、海外のエンジニアとコミュニケーションをする場合は以下の4つを意識すると、よいことがあるかもしれません。
質問は箇条書きで、なるべく端的に答えられるように。説明に画像を使うとなおよし。
サポートの優先度はビジネスがすべて。ビジネス上のメリットを明確かつ定量的に伝える。
言語が異なるとミスコミュニケーションが発生しがち。確認はしすぎるくらいが丁度よい。
海外の時差を意識したコミュニケーションをすると得することがある。
重要なこととして、このようなポイントは、ある意味日本で慣れている婉曲表現や空気を読むといったコミュニケーションとは大分離れており、人によってはやや失礼なのでは?と躊躇してしまうかもしれません。しかしながら、仕事を良い方向に進めるために自分の主張をはっきり伝える「アサーティブな」コミュニケーションをうまく使っていくことが、エンジニアのコミュニケーションでも必要になります。